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 次の文章は、主人公である私(本ブログの筆者)が体験したとあるクラブでの出来事である。私は友人達と久しぶりにクラブに来て、お酒を飲みながら踊るなどして楽しんでいた。これを読んで後の問(問1~6)に答えよ。

* * * * * *

 時刻は午前2時をちょうど回ったところだった。嫌がらせかと思うほどに聴き飽きた過去のヒットチューンしか流さない選曲に嫌気がさしてきたため、私は残り一枚となったチケットを使いドリンクを購入しようと、人込みを掻き分けてバーカウンターへ向かった。一緒に来ていた友人達は、最初から音楽などに一切の興味を示さず、今日のお目当ての女性を探すため、既にクラブ(注1)の中で散り散りになっていた。
 金曜日。クラブにいる客は、入店した時間に比べて倍以上は増えたと思われる。やっとの思いでたどり着いたバーカウンターには先に男女二人組が並んでいた。
 「お酒は何が好きなの?」 
 ぱりっとしたスーツを着た背の高い男性がクラブの騒音に負けないように声を張り上げて言う。 
 「シャンディーガフ(注2)。でも今日はモスコミュール(注3)が飲みたい。」
 黒いワンピースを纏った華奢な女性が一切の感情を失くしたような愛想のない返事を返すと、男は折りたたまれた財布から千円札を二枚出してカウンターの向こうにいる店員に渡し、お酒を受け取る。
 私は、(ア)半ば呆れ顔でその光景を目で追いながら、男女がいたスペースへ歩を進め、店員に、
 「ブラッディメアリー(注4)を一つ。」
 と告げた。トマトはアルコールの分解を早めるという嘘か誠かわからない情報を聞いてからというもの、私はほとんど必ずお酒の場でそれを頼むようにしていた。
 カウンターにもたれながら煙草に火をつける。朝まで体力はもつだろうか、そんなことを考えながらドリンクを飲んでいると、小柄でショートカットの髪型の女性が私の隣にやってきた。私と同じような姿勢になると、持っていた大きなスマートフォンを弄りだす。
 特に彼女に興味があったわけではなかった。既に先五mm程が灰になっている煙草を味わうついでに彼女がスマートフォンを操作しているのを見ていると、視線を感じたのか、彼女が私の方に顔を向けた。
 一瞬だけ目が合う。Aその時垣間見えた彼女の怪訝そうな表情が、勝手に私の口を動かした。
 「やあ。大きなスマホ(注5)だね。君の顔より大きいんじゃない?」
 あながち冗談とも言い切れないほど、彼女の顔は小さかった。
 「いやいや(笑)。でもこれ本当に大きくて使い辛いんですよね。」
 「確かに、全然スマートじゃないね。ただのフォンだ。Phone。」
 別に面白いことを言ったつもりはなかったが、彼女は賛同しながら笑った。その笑顔が私の首の後ろあたりで張り詰めていた糸のようなものを一気に弛ませた。同時に、私の中の彼女に対する興味が湧き出し始めたのを感じ、ネクタイをキュッと締め直した。
 「そのケースはかわいいね。なんだろう、エジプトの壁画みたい柄で。」
 「それ褒めてないですよね(笑)。ネイティブ柄(注6)!かわいいでしょ。」
 「好きなんだ。もしかして待受け画面はクレオパトラ?いやツタンカーメンかな?」
 彼女は「どっちだとしてもやばい(笑)!」などと言いながら、小さな両手を起用に使ってその手帳型のケースを開き、大きなスマートフォンのホームボタンを押して起動させた。
 「かわいいでしょ!」
 実家で買っている犬の画像が待ち受け画面に設定されていた。猫好きの私は、普段よりも増して大げさに賛同した。犬の話から、猫そして猫アレルギーの話など、頭に浮かんできたとりとめもない会話を続けた。決して私の好みの顔立ちではなかったものの、彼女の愛嬌のある笑顔と気さくな反応のおかげで、気づけば久しぶりにクラブでの女性との会話を楽しんでいた。
 「そういえば、立ちっぱなしで辛くない?」
 彼女からの賛同の返事を聞くと同時に、彼女の手をとって空いていたシートに向かった。
 服装の話をすると、彼女はさらに口数が増えた。褒めつつ、かつ小馬鹿にしながら、私は彼女の服装について感想を述べた。白雪姫のような薄いイエローのスカートに、深紺のタートルネックのニット。首元には小ぶりのモチーフのネックレス。彼女は確かにおしゃれだった。B私は、彼女と目を合わせる度に彼女と目を合わせ辛くなっていくのを感じていた
 
 午前3時を過ぎてしばらく経とうとしていた。普段ならとっくに寝静まっている時間が続く。彼女との会話はアップテンポで続いていたが、酔いもあって、思考と発言の間のラグ(注7)が大きくなくなるのを感じ始めた。スーツパンツの右ポケットから目薬を取り出し、右目、左目と順番にさす。目をぎゅっと瞑って、ばれないように一つ深呼吸をした後、アクセルを踏みっぱなしで続けていた会話に急ブレーキをかける。気分は指揮者。フォルテから突然ピアノに転調させるようにタクトを振るう。
 「酒言葉って知ってる?」
 彼女の頭上にクエスチョンマークが浮かぶのが見えた。
 「花に花言葉っていうものがあるように、カクテルやお酒にも酒言葉ってのがあるんだよ。」
 へえ、と彼女は答えた。
 「君が飲んでいるキール(注8)は、確か『最高のめぐり逢い』だったはず。それを頼むということは、そんなにオレと会えてよかったと思ってるの??(笑)」
 自分と会えて良かったと思ってくれてありがとうという感情を7割、君からそんなにアピールされても困るよという感情を3割といった感じのブレンドで言葉を投げる。
 「そんな言葉があるんだ!そうそう、ホントは知っていて注文したんだけど、よく気が付いたね(笑)!笑 さすが!」
 「嘘つけ!(笑)」
 彼女とは昔から友達だったんじゃないかと錯覚してしまうほど、意思疎通できているように感じた。
 「ちなみに、ブラッディメアリーの酒言葉は知ってる?」
 「んー、、、知らない(笑)。」
 「だろうな(笑)。ブラッディメアリーは『私の心は燃えている』だよ!ほら、ご存じのとおり、よく心燃えるしね、オレ。」
 「知らないし(笑)!むしろなんか落ち着いてるし、冷たそう、鉄の血通ってそう(笑)。」
 「いや、誰が鉄血宰相ビスマルクだ(笑)。冗談は置いておいて、君に燃えてるのはホントだよ。笑った顔もすごくかわいいし。」
 昂ぶる気持ちを必死に押し殺し、勇気を出して、(イ)端然とした態度で目を見つめて言った。Cまんざらでもない表情と困った表情の2つをにじみ出す彼女に対して、キスをしかける。唇が重なる。約10秒、時が止まるのを感じた。
 「ブラッディメアリーの酒言葉はもう一つあって、『断固として勝つ』という意味があるんだよ。もう疲れたし、そろそろクラブを出ようと思うけど、今日は断固として君を連れて帰るよ。」
 「うまいこと言ったつもり(笑)?」 
 「口下手だからしょうがない(笑)。嫌なら嫌とはっきり言う、OKならオレの手を掴む、さあ。」
 差し出した手を(ウ)はにかんで笑いながら彼女が握った。

 自宅の時計はちょうど午前5時を指していた。シングルサイズのベッドの上に、生まれたままの格好の男女が、布団を被りながら肩を寄せ合い仲睦まじく話していた。客観的に見れば、付き合いだしてすぐのカップルそのものだ。むしろ主観的にもそうなんじゃないかと、疲れと眠気で機能が低下した私の頭の中で現実と理想が混じり合っていた。彼女の前では、普段の自分でもなかなか見ることのない自分をすっかりさらけ出すことができていた。
 「ねえ、もう一眠りした後、お昼でも食べに行かない?」
 D自分の発言に自分で少し驚いた。
 「うーん、、、今日はお昼から予定があるから、また今度行こう!」
 彼女はそう言うと、脱ぎ散らかされた服を着始めた。黙って見つめる。しばらくして、私も服を着た。
 「駅まで送っていくよ。」
 小雨が降る中、傘を1つだけ差して歩く。何事もなかったかのように、最初に会ったときと同じような程度の会話をしながら駅まで進む。家から駅までの距離が、いつもより近く感じた。
 「ここまででいいよ。」
 彼女の言葉で二人は立ち止まった。
 「連絡先交換しておく?」
 彼女は少し考えた後、大きなスマートフォンを取り出した。「する」の言葉が二つ返事で返ってくると思い込んでいた私はその妙な間に少し不安を覚えながらも、私はLINEアプリ(注9)のID検索画面に自分のアカウントのIDを打ち込んだ。私のアカウントが表示されたことを確認して、彼女の小さな手にスマートフォンを返した。
 「じゃあまたね。」
 「うん。」
 帰り際に見せた彼女の笑顔と、その日に出会った女性と一夜をともに過ごしたという達成感に包まれながら、帰路につく。彼女の口から「またね」というワードが出てこなかったことに対して感じた不安を振り払うためか、非日常から日常へ戻ろうとその感覚を取り戻すためか、早朝にもかかわらず客が5,6人ほどいたコンビニエンスストアに入り、一人で食べることになった昼食を購入し家に戻ると、そのままうなだれるようにベッドに倒れ込んだ。

 目覚めると、枕元の目覚まし時計は午後3時30分頃を表示していた。寝ぼけながら無造作にスマートフォンの電源ボタンを押し、LINEアプリを起動させる。彼女とのLINEのトーク履歴には、朝方に私から送ったスタンプだけが表示されていた。そこに「既読」という文字がないことを確認すると、私はふてくされるように再度夢の中に逃げ込んだ。


(注) 1 クラブ---ダンスミュージック等を大音量で流して、曲に合わせて客が踊る店。酒類等の飲食物も提供している。
     2 シャンディーガフ---ビールベースのカクテル。ジンジャエールで割ったもの。
     3 モスコミュール---ウォッカベースのカクテル。ライムとジンジャエールで割ったもの。
     4 ブラッディメアリー---ウォッカベースのカクテル。トマトジュースで割ったもの。
     5 スマホ---スマートフォンの略称。
     6 ネイティブ柄---ネイティブアメリカンの民族の時代の織物のような柄。作中の彼女のスマートフォンの柄は実際のネイティブ柄というよりは、単純な幾何学柄模様をしている。
     7 ラグ---「差」のこと。
     8 キール---ワインベースのカクテル。カシスリキュールを加えたもの。
     9 LINEアプリ---無料で通話や会話が利用できるアプリケーション。


* * * * * *

問1 下線部(ア)~(ウ)の本文中における意味として最も適切なものを、次の各郡の①~⑤のうちから、それぞれ一つずつ選べ。

 (ア)半ば呆れ顔で 
  ①やる気のない表情で
  ②怒りをあらわにした顔つきで
  ③驚きばからしいと感じた顔で
  ④切ないような表情で
  ⑤感動で今にも泣きそうな顔で

 (イ)端然とした態度
  ①無愛想で不親切な態度
  ②イライラしたような態度
  ③興奮して活気づいた態度
  ④冷静で迷いのない態度
  ⑤柔らかく愛情のこもった態度

 (ウ)はにかんで笑いながら 
  ①恥じらいを見せて笑いながら
  ②明るく朗らかに笑いながら
  ③表情を崩して大きく笑いながら
  ④冷静に淡々と笑いながら
  ⑤こらえきれずに思わず笑いながら

*
問2 傍線部A「その時垣間見えた彼女の怪訝そうな表情が、勝手に私の口を動かした。」とあるが、このときの私の心情はどのようなものか。その説明として最も適当なものを①~⑤のうちから一つ選べ。

①彼女に話しかけるタイミングを伺っていた矢先、ちょうど彼女から目を合わせてくれたため、この機会を逃すまいと勢いよく話しかけた。
②彼女に話しかけるつもりはなかったが、彼女が不思議そうな表情で見つめてきたことで、無意識に彼女の行動を眺めてしまっていたことに気づき、気まずくなるのを嫌い話しかけた。
③彼女に話しかけるタイミングを伺っていたものの中々話しかけられない自分に対して苛立ちを感じていたが、彼女が私に興味を示すような目でこちらを見てきたため、安堵して話しかけた。
④彼女から話しかけられても全く話さないでおこうと決めていたが、こちらを向いた彼女の美しく端正な顔立ちを見て、思わずこちらから声をかけた。
⑤友人達とも離れてしまって暇だったため、煙草を吸い終えてから彼女に話しかけるつもりだったが、彼女がこちらを見たタイミングを利用して暇つぶし程度に話しかけた。

*
問3 傍線部B「私は、彼女と目を合わせる度に彼女と目を合わせ辛くなっていくのを感じていた。」とあるが、文章冒頭からこの部分までの私の心境はどのように変化しているか。その説明として最も適当なものを①~⑤のうちから一つ選べ。

①彼女と最初に会った瞬間から彼女の笑顔に心を奪われ、話しているうちにいつの間にか恋愛感情を抱くようになってしまっている。
②彼女にはそれほど興味をいだいていなかったが、話すうちに彼女からの強い好意を感じるようになり、自らの彼女に対する感情との乖離にいたたまれない気持ちになっている。
③彼女と会った時はまだ眠気もなく目もぱっちり冴えていたが、彼女と平凡な会話をしているうちに、眠気が襲い始め、目も乾いてきて、目を開けているのが辛くなってきている。
④彼女にはそれほど興味を抱いていなかったが、話すうちにいつの間にか打ち解けてしまっており、心なしか彼女が非常に素敵な女性だと思い始めてきている。
⑤彼女には全く興味がなかったものの、彼女の気さくな笑顔と明るい口調のおかげでこの空間を存分に楽しめていたため、彼女に感謝の気持ちを見い出している。

*
問4 傍線部C「まんざらでもない表情と困った表情の2つをにじみ出す彼女」とあるが、このときの私の推察している彼女の心情はどのようなものか。その説明として最も適当なものを①~⑤のうちから一つ選べ。

①突然口説き文句のようなセリフを言われて動揺しているものの、なんとかその動揺を隠そうと無理に嬉しそうに振る舞っている。
②思わず自分に対する好意を伝えられ動揺しているが、それでも多少の嬉しさは隠しきれずもうひと押ししてほしいという気持ちが表情に自然と浮かび上がっている。
③その日に何度も同じようなセリフを言われたであろうからもう飽きてしまっていそうだが、それでも私から言われたのは特別であるため、とても嬉しく感じている。
④突然の言葉に強い嬉しさを感じたが、自ら嬉しいという気持ちを口に出すわけにもいかず、どうすればよいか困っている。
⑤今まで楽しく話していたのに、急に落ち着いたトーンとセリフを不思議に思い困ったものの、とりあえず嬉しそうな気持ちを表情に表わしている。

*
問5 傍線部D「自分の発言に自分で少し驚いた。」とあるが、なぜ私は「驚いた」のか。その理由の説明として最も適当なものを①~⑤のうちから一つ選べ。

①昼食を誘っても絶対に断られるだろうと思っていたにも関わらず、自信をもって彼女を誘ってしまい、自分の愚かさを感じたから。
②疲れていて、二人でシングルサイズのベッドに寝るのは嫌だったため、早く帰ってほしかったのに、それ以上に空腹が激しかったために思わず昼食の話を出してしまったから。
③彼女と楽しいひとときを過ごせたのは確かだが、これ以上彼女のために時間を割くのはもったいないと思っていたにも関わらず、彼女の楽しそうな表情を見て、つい誘ってしまったから。
④このまま朝食を食べに行こうと誘うべきところを、昼食を食べに行こうと誘ってしまい、しまったと思ったから。
⑤当初は自分の好みではない彼女に対して興味を抱いてなかったが、いつの間にかすっかり彼女の魅力に魅了されてしまっており、もっと一緒にいたいことを何の遠慮もなく口にしてしまったから。

*
問6 この文章に関する説明として適当なものを次の①~⑥から二つ選べ。
①この文章は、会話を中心とする構成となっており、会話の中では私や彼女の感情が直接的に表現されていたり、私の周辺の環境に対する捉え方が具体的に書かれていたりして、両者の乖離していく心境の変化が非常に伝わりやすい文章になっている。
②「早朝にもかかわらず客が5,6人ほどいたコンビニエンスストアに入り、」という一文に見られるように、所々に何気ない日常生活の風景を映し出すことで、私の一連の体験が日常の中に非日常を見出したものであり、その日常と非日常をしっかりと割り切ることができている私が描写されている。
③この文章は、経過する時間をその場その場で読者に伝えることで、私の彼女に対して強くなっていく感情の移り変わりを臨場感を出しながら表現しており、かつ、私の心情を一人称で語りながら比喩の手法を用いたりして詳細に描き出している。
④文章中に「です・ます調」を一切使用しないことで、私と彼女のくだけた仲の良さを表現することができており、また酒の名前や彼女の服装などについてカタカナ言葉や英語を多用することで、表面上だけでもクラブの中では海外の紳士のように振る舞おうと必死になっている私の姿を間接的に描いている。
⑤この文章は、彼女との出会い、彼女との駆け引き、彼女との別れ、そしてその後、という四段構成になっており、また、「!」や「?」、「(笑)」といった表現を会話中に用いることで、私と彼女の表向きの感情を表現しつつ、普通の成年男性と何ら変わらない私の本来の性格については、要所で描かれる感情に関する描写や私の行動で細かく読み取ることができる。


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解答は後日。

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